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求心力成功企業と「オフィス」の今後
廣田:宗教的な考え方の体系がありましたが、松下先生の研究で、アフターコロナで成功しつつある、求心力を感じる会社はどのあたりですか?
松下:アフターコロナに限りませんが、パタゴニア(Patagonia)さんですね。アウトドアメーカーでライフスタイルメインの採用や組織の作り方をしているので、強いです。アフターコロナになっても物とか自然は変わらなくて。それを好きな人たちが集まっているよっていうメッセージは、基本的に変わらないという意味では求心力がありますよね。
松下:あとは、コロナでうまくやっているというか追い風になっているんだろうなって思うのは、サイボウズさんみたいな自由な組織。
廣田:サイボウズさんは社内公募で新卒を取締役にする話が話題ですね。
松下:ティール組織的な試みがうまくいくかどうかとかは別として、「そういうことをする会社なんだ」っていう訴求力は高い。平社員の人が手をあげて取締役になるのは、それ株価がどうなるかとか、何パーセント上がりうるとかを計算してやっているわけじゃないと思うんですよね。「チャレンジしていく会社なんだ」「こういうカルチャーの会社なんだ」っていう訴求力は伝わっている。そこは強いですよね。
廣田:場所、オフィスがモニュメント的になっていくとのことでしたが、とはいえ、例えばFacebookのMessengerを使う部署とメールを使う部署とslackを使う部署と…コミュニケーションの場所が散らばり始めると、組織として成り立たないのではないかという懸念もあります。コミュニケーションの場所とか連絡手段はどのように変わっていくのでしょうか。
松下:slackなりメールなり、あるいはVRなりがある種のデファクトスタンダードになっていくのではないでしょうか。そのプラットフォームをどこが握れるか…slackがこのままいけるのか、他が出てくるのか…っていうのは競争しているところなんだろうなっていう気はしますね。
いずれにしても、コミュニケーションのプラットフォームが1つないと抽象的にも見えないため、そこはポイントですね。
もう1つは、A M U S Eさんが富士山の方に移動しましたね。この動きはオフラインとオンラインの両睨みですよね。オンラインでの業務やコミュニケーションは進めつつ、直接会えたり、体験できる場所も作っておくのがポイントかなと思います。
廣田:なぜこのプラットフォームを選び、なぜこういう場所を作ったのか、というところに、その組織や企業の求心力のあり方が出てくるんでしょうね。
松下:そうですね。今まで「オフィスに来なさい」とか「うちはこれでやってるんで」みたいな無言の前提が「それが働くっていうことだから」とか「それがうちの会社だから」の一言で済んでいたのが、いちいちちゃんと説明しないといけなくなったというか。
「なぜオフィスにくるのか」とか「なぜメールでやっているのか」とか「なぜファックスなのか」とか。
それはDXとちょっと絡んできているんですよね。「なぜハンコなのか」とかもやっぱり説明しないと「本当にこれいるの?」っていう。
廣田::「手続きなので」ではなく、例えば「うち仏教なので禅堂が必要なんです」という、ストーリー付けや、意味づけがこれからどんどん必要になってきますね。
変化と転生
廣田:信頼関係構築の文脈で、今は対面で打ち合わせすること自体が失礼に当たりつつありますよね。
松下:そうですよね。説明されると「そうだな」とか「それは心遣いだな」っていうのはあるんですよね。メールで送った書類を印刷して持っていきますとか、「○○行き」を「御中」に変えるとか、それは確かに心遣いなんですけど…。
廣田:その心遣いもそのうち心遣いだと思われなくなるんでしょうね、きっと。「心遣いの基準」が変わる、時代の変わり目ですね。紙からデジタル、ハンコ問題、はまさに異世界転生で、いかに転生した先のルールと世界観に乗れるかで、活躍できるかどうかが変わってきますよね。
松下:どんな世界に転生しても適応できる力も大事だし、ビジネスでいくと異世界に転生させるっていうのがプラットフォームの握り方だと思うので、その2つ大事だと思うんですよね。
廣田:転生先のプラットフォーム…異世界を作っちゃう、それは1つですよね。
松下:zoomはそういうことですよね。異世界を作ったということですよね。
廣田:一方で、異世界つくろうとして、やっぱり作り切れなかった…セカンドライフとか、作り切れなかった例っていっぱいありますよね。オンラインとオフラインでいうとセカイカメラ(※2)ってご存じですか?これはすごい世界が来るなと思ったんですけど、こなかった。
リアルでスマホを通して世界にタグ付けするっていうのが、これはくるんじゃないかと思ったんですけど。やっぱり早すぎた。世界が早くできすぎると難しいなというのもありますね。
※2 2009年に公開された、ARアプリ。iPhone、Android、auの携帯電話(ガラケー)向けにもリリース。ガラケーのセカイカメラは「セカイカメラZOOM」という名称で公開。
松下:やっぱりそこのタイミングって自分ではかることはできないんですけど。なんでSkypeじゃなくてzoomだったのかとかも謎ですし、なかなかコントロールしきれない部分って多いんですけども。でも、それも社会的に見ると積み重ねなのかなっていう気はします。