松下慶太先生の語る、アフターコロナのオフィスデザイン

企業の合理性

松下:会社が「生活」に押し付けていたコストやリソースがあらわになってきたと思います。「別リソース」で見えなくしていた部分がパッと見えてきた。通勤はわかりやすい例という気はします。

廣田:そうですね。オフラインでふたがされていたものや、場所が違って見えなかっただけのものが「見えてしまった」のが今かもしれないですね。

松下:そうですね。そこを今後、企業はどう見ていくのか、逆に学生や社会人が自分にフィットする企業を選んでいくのか。

廣田:ベンチャーだとオフィスに大きな投資をして「オフィスがイケてるので入社しませんか」とか、「商談がうまくいきますよ」という話がよくあったと思います。これからはオフィスで魅力をつくる手法も使えなくなりますね。

松下:そうですね。オフィスで惹き付けていた部分が、今後はカルチャー重視になるかなと。その組織や集団が持つ雰囲気やカルチャー周囲のコミュニティが重視されていくんじゃないのかな、と個人的には思います。

オンラインファーストによるカルチャーの表現

廣田オフィスといったファシリティで特色を出すことで自社カルチャーを表現していた人たちが、今、「どこでカルチャー表現するのか」や「自分たちのカルチャーってそもそも何か」という問題に直面していると思います。

松下:そうですね。カルチャーの表現の仕方が、オフィスが前提でなければYouTubeなのか。またはwebサイトなのか。それともコミュニティ的な集まり、人なのか、と多様化してきたけれど、そこで出すべき自分たちのカルチャー自体を自分たちがよくわかってない。

見せるカルチャーはあるが、どうみせたら良いのかわからない」という話なのか、「見せ方はあるが、カルチャーは何なのかわからない」という話なのか。そこは自分たちで問うべきところなのかなという気はします。

廣田:物に頼っていたところが丸裸にされてしまったのが今、なのかもしれないですね。先程の「見えなくしていたものが見えてしまった」もそうですし、あったと思っていたらなかった、という。

福利厚生の表現も、例えば会社の飲み会は家に飲み会セットを送って、その飲み会のセットを社員がSNSにアップして、こんな会社だよと表現する、従業員を巻き込んだカルチャーの作り方が今後どんどん伸びていくんだろうなって思いました。

表現の多様化の中で、どこに物差しや焦点が当たっていくのか。

松下:そうですね。その解釈もいろいろ出てきますよね。例えば、その飲み会をしている姿をSNSで見て、「仲のいい会社だ」と判断する人もいれば「こんな飲み会があるなら嫌だ」という人もいる。採用という面で見れば、カルチャーフィットする人を選ぶのでそれはそれで良いと思います。

一方で、HR全体で見たときは、カルチャーフィットする人を集めて多様性がなくなるとリスクもあるので、そこのバランスをどうとるかは今後の課題でしょうね。

廣田:直接雇用されている従業員の方はそれで良いと思うのですが、派遣社員、または業務委託など外部のメンバーが、今までクライアント先(会社)に行くことで、その組織に溶け込んだフリができていたものが、今後どうやって溶け込むきっかけを見いだしていけば良いのでしょうか。私自身、 ITコンサルとしてクライアント先へ行くことが多いので、今疑問に思っています。

いろいろな組織のカルチャーが混じるところの分水嶺、組織と組織のコミュニケーションは、場所がなくなりつつある今、どこに重きを置くべきなのでしょうか。松下先生はどのようなイメージをお持ちですか?

松下:基本的には、オンラインファーストになると思います。包括的なコミュニケーションやカルチャーを伝えるのはやはりオンラインです。

ベースとしてオンラインがあり、「今回はここを切り取ってみなさんにこうやって見えています」とか、それが本だったり場所だったり。そういったコミュニケーションの仕方になっていくのかなと思います。

かつては全部オフィスが丸抱えしていたと思うんです。よく分からないけれども物理的に「ある」から何かあるような気がしていた。これからはその「何か」をオンラインベースでどう見せてゆくのかという発想が増えていくでしょう。

カルチャー造形は宗教に倣う

松下:宗教には、キリスト教にしてもイスラム教にしても思想体系というものがあります。それを、例えば教会という形や、お祈り、奇跡という「見える形」に変換している。でも、その総体、宗教のカルチャー自身はふわっとしていて、ある種オンラインと似ています。

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組織カルチャーも宗教もほぼ同じ課題だと思います。莫大な思想体系を、ゴリゴリの神職者の人にも、字が読めない人たちにも伝わるようにはどうしたら良いか、異教徒にどう伝えるのか、を磨いてきたのが宗教なので、アフターコロナの組織カルチャーづくりの参考になるのではないでしょうか。

廣田:同じようなバックグラウンドを持っている方に伝わるだけではなく、違うバックグラウンドの方にも伝わるために「形を変えてでも伝える」のはこれから重要になります。

それは例えばフェイスブックを通して…とか、ツイッターを通したりクラブハウスを通したり。受け手はみなバラバラな状態だけど、その伝える思想や、企業で言えばミッションや事業内容というのが違う形式でどんどん布教されるべきということですね。

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