松下慶太先生の語る、アフターコロナのオフィスデザイン

コミュニケーション戦略、デジタルツイン

松下:これまで「コミュニケーション戦略」は、基本的にメディアが中心だったものが、場所やコミュニティといった形の物理的な建築であったり、人の繋がりが新たに加わっているというのがこのアフターコロナ、今の2021年のこれから企業が向き合うところなのかなと思います。

廣田:メディアだと広告系の業界が冷え込み始めていますが、逆にチャンスかもしれないですよね。

松下:そうですね。代理店さんも含めてメディアがメディアしか見てないというのは危ないですよね。今ではコトやモノを作っていくこともやるようになりました。例えば、僕はメディア専攻にいますが、メディア専攻だからテレビ局に行きますってだけではなくより広い視野を持ってほしいですね。メディア産業はメディアだけやるのではなく、そういった建築とか人のコミュニティなど含めて目配せしていかないと、ビジネスとしては厳しいですし。逆に、建設業界にそういったコミュニケーションやメディアの知見を活かしながら入り込んでいくのも大事かなと思いますね。

廣田1つのツールにこだわるとか、1つの場所にこだわる考え自体が今後は危ないですね。

松下:そうですね。例えば、ノンメディアセントリックメディアスタディ、つまりメディア中心じゃないメディア研究という流れも出てきつつあります。これはモバイルメディアやソーシャルメディアがもたらした1番大きな変化だと思うんです。メディア研究もメディアを見ているだけで完結しなくなって、場所や建築などリアルやさらにARやVRのような仮想現実とも結びつけながら考えていく必要があります。

廣田:東京都がデジタルツインという、東京都の3Dモデルを公開しましたね。どちらがオフラインでどちらがオンラインなのか、今後は完全に境がなくなっていくんだろうと思っています。

松下:そうですね。今までのメディアリテラシー教育は「オンラインとオフラインの区別をつけろ」といってきていたのですが、むしろどう混ぜていくのかがこれからの話だと思うんですよね。

自我を保つ

廣田:「オンラインとオフラインを分けなさい」がスタンダードだったものが「混ぜて考えないと生き残れないよ」と、価値観がまるで変わりますね。

例えば私が学生時代は「いい大学に入っていい企業に入ってそこで一生働く」という価値観がメジャーでしたが、今は起業家やYouTuberがもてはやされ、パラレルな働き方がプッシュされる風潮です。

世の価値観が変わるごとに自己否定を繰り返すような生き方になり、自分が自分であることが困難になりつつあるのではないかと思います。中には辛い人もいるだろうなと感じているのです。今後どのように自我を保っていくのがよいのでしょうか。

松下:むしろ自分はこうやってきたとか、こうやって成功したという自我がある人の方が辛いかもしれないですね。自分の成功体験にこだわっている時間より速いスピードで輪廻転生を繰り返しているって考えた方がいいかもしれないです。

廣田:なるほど。

松下異世界転生ものって大量生産されていますが、僕あれは意外に面白いなと思っていて。要するに、昔に培ったスキルを異世界で使ったらこうなりましたとか、昔ダメだったけれどこちらの世界に来たらこうなりました、というのを、ポジティブにとらえていけば良いんじゃないのかなと思うんですよね。

転職とS N S

廣田:転職は異世界転生と同じような話ですよね。前職で培ったスキルや前職で成果が出ていたものを次の職場でもそのまま活かせるかというと正直わからない。前職では成果が出なかったけれど、違うフィールドや全く畑違いの所に行ったら前職で自分が頑張っていたことが活きてすごく活躍できるとか。

松下:そうですね。それをポジティブにとらえられる人の方が今の時代には向いているのかもしれない。

廣田:SNSのフィールドが変わるのも一緒ですよね、きっと。

松下:はい。以前流行って今は落ち着いてきているClubhouseとか、TikTokであったりとか、ソーシャルメディアを教えていると毎年流行やスタンダードが変わっています。「嫌だ」ではなく「面白いもの出てきたからこんなふうに使えるのではないか」とポジティブに迎える人の方が良いと思いますし、「こういうものが作れるのではないか」と考えられる人が起業していくのかなと感じます。

廣田:流行に流される力と、その流れを利用してやろうという力、あとは流された後のフィールドで頑張る力、そういった「流され力」も必要かもしれないですね。

松下:はい。今まで言われてきたような「1つの企業で3年やってみなさい」とか、「終身雇用前提でそこで頑張れ」が通じない世界観になっているなと思っていて。僕はそれを「量子力学的な世界」だと見ています。

すごく雑な理解で怒られそうですが、量子力学って要するに0か1かわからない状態をそのまま重ね合わせて計算していく世界観だと考えられます。最後に観察した瞬間に結果が決まる。だから、それをメタファーとして考えると、今まではコンピュータ的に0か1かの組み合わせでワークスタイルやキャリアプランを考えるときに「今は仕事しているのか、それとも遊んでいるのか?」と、0か1かスイッチを切り替えていきなさい、だった。

それが今は「どちらでもない」。どちらでもないからこそいろいろな可能性がある、と切り替えをしていく方が生きやすいんじゃないかな。

廣田:確かに。YouTuberなど、遊日が仕事になっていますものね。最初に正解か不正解なのかを決めつけること自体が、すごくリスキーですね。

松下:「どっちでもないけれど正解かも」と。正解不正解って、それ自体プラスとマイナスみたいな表現がよくないんでしょうけどね。

1 2 3 4 5 6