松下慶太先生の語る、アフターコロナのオフィスデザイン

ファーストテイクに見るリアル

松下:YouTubeのコンテンツで「THE FIRST TAKE」っていうのがあって。一発撮りの、一発で歌うコンテンツですが、今の時代にフィットしていて、象徴的だなと思っています。今までライブやフェスという生の場に行かないと緊張感が伝わらないと思われていたものが、YouTubeで一発撮りしているところを見たら緊張感が手に取るように伝わる。

YOASOBI(というアーティスト)が歌っていて、彼女らが言うにも、「ファーストテイクって100点を取るコンテンツではなくて100%を出すコンテンツだ」と。結果的に100点じゃないかもしれないけど、100%出せるかどうかという視点をオンラインのコンテンツが提供しているのは示唆深いですよね。

デジタルって「リアルじゃないからダメだ」ではなくて、むしろデジタルでその緊張感がみんなに伝わるっていうのはある種面白いコンテンツだなと思っています。

廣田:結果が100%ではなく、持っているものを100%出し切る環境や、伝え方が非常に重要で。むしろ結果はもうわからないものだという状態でないと、全体的に総量は下がっていきますものね。

松下:そうですね。総量下がっていく中で100点じゃなくて200点、300点、1万点出すのはやっぱり100%出す環境を整えるしかない。いかに100点を取るかという、確率を上げる話をしてもやっぱり始まらないですね。

ワーケーションはそういう文脈で考えられて、異世界転生だと思うのです。会社ではない場所に行き、地域の人達と関わることで、社会課題に関わる可能性もあるし、自分の100%を出せるかもしれない。受け入れる自治体も移住目的だけでなく、総量を上げるチャンスだと考える必要があると思います。

廣田:いかに自分の持っている力を100%以上引き出して結果を未知数にするかというのは、単純な移動や場所の選択だけでなく、選択した理由や意図をストーリーとして用意したり、逆にストーリーを想起させやすい環境を用意したり。

松下:今、自治体もワーケーションで盛り上がっているのですが、ワーケーションは一種の異世界転生やロールプレイングゲームなのに、そこで何をするのか「目的を言わない」という、いきなり放り出すようなところはありますね。

廣田:オープンワールド(舞台となる仮想世界を自由に動き回って探索・攻略できるように設計されたゲーム)みたいですね。

松下:やはりそこはストーリーをきちんと提示する必要があると思います。「温泉があって魚がおいしい」って魅力のストーリーは作りやすいですけれどそれだと日本のだいたいの地域が当てはまりますし、観光という視点に寄り過ぎています。そうじゃなくて他の地域ではなく「なぜそこでするのか」というストーリーの方が大事だと思います。そこは自治体はまだまだ取り組める余地のあるところだと思っています。

廣田:接点のストーリー作りは大切ですね。

求心力になる組織

松下:「求心力」になる組織も同様、ストーリー付けが必要だと思います。今までは若者も多かったので「なぜうちで働きたいの?」と企業が聞いていたのですが、今後は企業も「なぜうちで働くと面白いのか」をもっと寄り添った形で出さないと、ワーケーションの自治体と同じになりますよね。単純に待遇でいくと海外の企業に負けますから。

廣田:その人と人との接点を、相手に応じてストーリーできちんと語れることの重要さを感じています。

松下:エビデンスベースでと言われがちで、数字で示すことが大事である一方で、ストーリーは数字を示してOKにはならなくて。アフターコロナでいろいろな前提が崩れていく中で、企業の在り方やビジネスの在り方やHR含めて、ストーリーというものが、ポイントになってくるのではないかな。

廣田:人と人がストーリーで繋がっているっていうのはすごく異世界っぽいですね。

松下:そうなんですよ。HRとは少し離れますが、製品のマーケティングにしても日本のITとアメリカのITとの一番の違いはストーリーの強弱で出ている気はします。それがHRにも徐々に出始めているのではないでしょうか。

廣田:日本のITは機能ベースというか、カタログ重視ですね。処理のスピードが速いのは分かる、機能がいっぱいあるのは分かる、でも、じゃあそれだけで選ぶのか?と話ですよね。

松下:会社も、その仕事は確かに大事だけれど、「それをしたいか?」とか「すべきか」の話になるとやっぱり夢がない。そこはZ世代とかリモートネイティブたちはこれから大事にしていく。SDGs、サステナブル、ESGというストーリーが上手だと思うのですよ。よく企業で言いますが、コンサルティングをつけることも大事ですが、ストーリーテラーを雇った方がいいと思います。

廣田:アメリカではストーリーコンサルを雇うって聞いていますし、日本でも今後は増えてきますよね。きっとwebの代理店はどんどんそっちにシフトしていくんだろうなという気はします。webサイトであったり、キャンペーンであったり、人と人を繋げるストーリーを企業のモニュメントとして作る。

松下:そうですね。そこを一貫させてきちんと構成する、ストーリーだけではなくストーリーに基づいたオフィスのデザインであったり、制度の作り方であったり、それが1つのブランディングですよね。今後はそれに投資したり、こだわるところが増えてくることを期待します。

学生想いで楽しい松下先生。漫画が好きな一面もあり、大変魅力的で素敵な方でした。お時間をいただき本当にありがとうございました。

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