コロナ禍で課題噴出 大学経営ぶっちゃけトーク

双方向のオンライン授業には高いハードル

廣田:授業がオンラインになったことで学生とつながりやすくなった面がありそうですが?

斉藤:オンラインと言ってもみなさんがイメージするようなオンラインではありません。課題の動画を見てレポートを郵送やメールで返送する、いわゆる少し前の通信教育みたいな感じです。リアルタイムに双方向のやり取りをする授業ももちろんあるのですが、そこまでITリテラシーが追いついていない先生も多いのが実態です。

廣田:予備校で年配の先生がオンライン授業に最後まで対応できなかったという話を伺ったことがあるのですが、大学もですか?

斉藤:リアルタイムのオンライン授業はハードルが高いです。機材や回線といったインフラの課題に加えて授業内容にも工夫が必要です。このため多くの授業は、課題を見てレポートを提出するという繰り返しとなり学生の不満につながりました。授業のクオリティへの不満と、大量の課題で忙しすぎるという不満。さらに、先生の側も提出されたレポートを読むので精一杯、という状況です。

廣田:誰も喜ばない状況に陥っていますね。ちなみに双方向のオンライン授業はどのように行われるのですか?

斉藤:学校から実施する先生もいれば、自宅からつなぐ先生もいます。個人の判断です。決まっているのは「対面授業はダメ」ということのみで具体的なフォーマットはありません。機材や環境も先生自身で用意します。そのためのお金は多少なりとも出ますが。

廣田
廣田

それは学生だけではなく、先生も個人で情報を取りに行く能力や資質がすごく問われていることを実感しますね。

斉藤:各大学ではオンライン授業の研究会が行われました。フェイスブックに大学教員の授業の進め方というコーナーもありますね。

廣田:大学向けのソリューションがいろいろ出てきそうです。

斉藤:これからですね。実態はそこまでたどりつかず、とりあえず対面でやっていたものをオンラインでこなすことに精一杯でした、今までのフォーマットをオンラインに置き換えたところまでです。

廣田:配信の規格やフォーマットはもちろん、簡易的なスタジオセットなども検討できますね。あとは授業のシラバスに合ったwebシステムやポータルサイトが出てくるでしょうから、それを使いこなすための授業の企画・運営力が試されることになっていきそうです。

サーバーも座席もキャパシティ不足

廣田:人気の授業も変わっているようですか?

斉藤:そうですね、変わっています。ただ、人気の授業が大きく偏ることによる心配もあります。みんなで双方向授業をやると、どうしてもネットワークが圧迫されます。設備投資ができない学校もあるでしょうし。

廣田:ネットワークは配信規格や動画の解像度をどう設定するかという決めが必要です。

斉藤:本当はそういったルールから決めなければなりません。事前収録のオンデマンド型でも各授業が一斉に始まるとサーバーがパンクします。対面授業が再開された場合、学内に学生が多数いる状態でオンライン授業があればネットワークのキャパシティが問題となります。

さらにアフターコロナの対面授業には座る場所がないというスペースの問題が生じます。感染症対策のため間隔を確保するとこれまでと同じ人数を収容できないのです。特に都心の大学は一時期都心回帰で地方から引き揚げる動きがあったのでより影響は大きいです。

廣田:インフラ絡みの問題も多様で深刻ですね。

斉藤:立正大学の熊谷キャンパスはスペースにゆとりがあり敷地内の学生寮に3分の1が住んでいます。こうした環境であればリアルなガイダンスを開催可能です。しかし、品川キャンパスでは困難です。3密回避のため教室のキャパシティは収容定員の半分。そうすると、授業も1回の開催では足りません。授業数を増やす場合、次に誰がその授業を担当するのかという問題が出てきます。

廣田:なるほど。オフラインの授業でも仮想的にオンラインで出席できる仕組みとか、あとは例えばサードプレイスの教室、提携している大学との連携とか、そうした手法が生まれてきそうです。

斉藤:例えば就職のガイダンスだったらどこの大学でも大きな差はありませんので合同でやれるのかもしれません。うちの大学で言えば、品川キャンパスのそばに清泉女子大学があるので、インターンシップ合同でやりましょうという動きがあっても良さそうですが、基本的には各大学が個別に実施しているのが現状です。文科省が旗振り役になってくれるといいなぁ、なんて個人的には思います。

廣田:あとはそこにどうやって企業が関与するのかという視点もありますね。就職ガイダンスであれば、IT企業の会議室を利用させていただければネット環境も繋がっていますし。

斉藤:そうなれば文化の違う学生同士が情報共有をして意識が高まったり、新しい知見が増えたりと、良い変化が生まれる気がします。

廣田:得られる情報の幅も広がるでしょうし、特に就職という社会との最初の接点となるタイミングでは、もっといろんなコラボができる環境になるのが望ましいですね。

斉藤:そういう環境になるといいですね。それはすごく感じます。

コロナ禍でいっそう厳しく問われる大学運営

斉藤
斉藤

この1年余りをふりかえるとコロナ禍の以前から実は感じていたいろいろな課題が浮き彫りになったと感じています。

廣田:どのような課題でしょうか?

斉藤:例えば、少子化によって将来訪れると予想されていた大学の運営危機が前倒しでやってきました。今年の春は実感として定員割れの学校が増えたのではないでしょうか。募集定員に対して実際の学生が少ないため文科省から改善を要求された大学もこれまでにありました。

廣田:コロナ禍がどのように関係しているのでしょうか?

斉藤:以前であれば東京でなければインターンシップを受けられない、だから東京の学校に入学し就活をするという流れでした。いまの学生は、「別に地方で問題ありません。オンラインで面接できます」、「インターンもオンラインで経験します」という状況です。わざわざ東京に来る必要がありません。

廣田:確かに。あとは経済的な事情もありそうですね。

斉藤:ご両親の収入が減って1人暮らしをさせられないとか、受験する大学の数を減らすとか。だからこそ、先ほどの出口戦略のような共感されるビジョンを打ち出すことが必要です。大学がどこを見て運営されているのかということが厳しく問われる時代に突入したということを実感しています。

廣田:気づいていたがやり過ごしていた問題が顕在化したというのがこのコロナ禍ということですね。

リアルなお話を聞くことができて課題が非常に多くあるということと、その課題解決にITが果たせる役割も大きそうだということを実感しました。本日は貴重なお話しをどうもありがとうございました。

Numberの考察

アフターコロナの大学経営と一言で言っても非常に広範囲の、そして多様な課題があることがわかりました。

「校地は、教育にふさわしい環境をもち、校舎の敷地には、学生が休息その他に利用するのに適当な空地を有するものとする」(大学設置基準 第34条)

この一文の必要性は当然理解できますが、今優先すべきことは何だろうかという疑問も斉藤さんの話を聞きながら感じてしまいました。

学内の情報伝達の設計、学生の出口戦略の構築、新しい授業のソリューション導入とインフラ整備。そして、なによりそういった変化を重ねた末に「どういう学びの場を目指すのか」というビジョンを発信しなければなりません。

山積みの課題に対し、変化のスピードが速いとは言えない環境にいながら斉藤さんのようにアンテナを高く立ていち早く情報をつかむ姿勢が非常に重要だと感じました。

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