コロナ禍で課題噴出 大学経営ぶっちゃけトーク

弊害も目立つ大学職員のジョブローテーション

廣田
廣田

この1年、オンラインの活用が強く求められてきたと思いますが、こうした変化に対してどのように対応されたのでしょうか?

斉藤:当初は、オンラインの授業に切り替えましょうと言われても、どんなツールがあり、何をどう使えばよいのかわかりませんでした。学校の推奨ツールは、MicrosoftのTeamsとCiscoのWebexです。ただ、学生と話すとZoomが一番使い勝手良さそうでしたので、いち早く試してみました。

廣田:斉藤さんは、Zoomやそのほかのツールについてどのように情報を集めたのですか?

斉藤:いろいろな人の話を聞くしかありません。学内では情報が乏しいので、企業の人事担当者の集まりに私一人だけ学校関係者です、みたいな感じで顔を出すなどしています。学校の職員としては少し珍しいタイプかもしれません。

廣田:情報を自ら取りに行く、ということが職業柄生じにくいということでしょうか?

斉藤:専門職という自覚が生じにくい面はあるかもしれません。ジョブローテーションがあるので、人事を担当し、数年後に管財を担当し、次にシステムを担当し……となると「専門性を極めていこう」という意識が生まれにくい。

当然、弊害もあります。例えば、建設業界のことを知らずに新校舎建設の担当になるということが起きてしまいます。でもそれで工事を請け負うゼネコンと対等に交渉を進められるわけがありません。

廣田:そうするとジョブ型の採用というかキャリアパスにするということも重要そうですが。

斉藤:重要ですが、できているとは言えません。中には専門職としてのキャリアカウンセラーもいますが、契約社員でやはり長期に担当できるわけではありません。このため学生の支援体制が継続性も含めて整いにくいのが課題です。

大学の中には学生課が企業との受付窓口としてしか機能していないところもあります。そうした大学は、内定率が何パーセントでしたというデータを出せても、そのデータを活用して「学生をこういうふうに支援していこう」とか「こういう情報を伝えていこう」という方針までは立てられません。

廣田:なるほど。ますます学生としては自分で情報を取りに行く癖や、自走できる力を身につけておかないといけませんね。

在宅勤務用のPCが届いたのは感染が始まった1年後

廣田:学校をとりまく経済構造はコロナ禍でどのような影響を受けていますか?

斉藤:学生生協や食堂の運営などは学生が来ない影響を直接受けます。駅から学校までの送迎バスの業者も仕事がなくなります。学校がオンラインになると。

廣田:バランスが崩れ始めていると。

斉藤:崩れています。しかし、法律も含めて対面授業が前提のため、新しい対応をするということが難しいのが実態です。例えば学校には設置基準という決まりがあるため、学生が使わないのを承知で施設を高いレベルで維持しなければなりません。誰が来るわけでもないのに景観維持のために植栽する作業を見て「あぁ、もったいない……」と思うこともありました。

廣田:なかなか臨機応変に身動きが取れない事情があるわけですね。

斉藤:保護者の方が、設備を使っていないのになぜ設備費をとるのかと思われる気持ちも理解できます。しかし、実際には費用が掛かっています。「対面授業がないのに、授業料がなぜこんなに高いのか」という声も届いていますが、zoomのアカウント契約や、カメラの購入費、パーテションや消毒薬、体温計の大量購入など、むしろ出費は増えて赤字です。そうそう、私の在宅勤務用PCが支給されたのはいつだと思います? 今年の2月ですよ。

廣田:え、今年の? 感染が始まって1年経っていますよ。稟議が通らないとかそういう話ですか?

斉藤:いえ、もともと決まっている予算があるので、そもそもすぐには対応できないということですね。さらに機材の選定やセキュリティ対策なども検討しなければなりません。外から学校のシステムにどうやってアクセスするかとか、セキュリティを高めるためにどのシステムを使うかとか。

廣田:これだけ時間がかかるとなると、学校全体の方針を待つのとは別に、個人でも特にIT関連の情報を中心に積極的に収集して対策するということが必要になりますね。

斉藤:もともとデスクトップ型のPCが支給されていました。当然、オンライン授業は想定外。さらにセキュリティの観点からクラウド依存のシステムです。で、コロナ禍となりオンラインの就職ガイダンスをやろうと思ってそのPCにウェブカメラをセットしたらメチャクチャ遅延しました。衛星生中継のように映像と音声が合わない。これではオンライン対応はムリと判断し、私物のPCで対応しました。

感染症は完全に危機管理対策の想定外

廣田:様々な対応を振り返って、過去に戻れたとしたらこういう検討をしておけばもっとスムーズにいったかもしれないというものはありますか?

斉藤:事前の準備ということで言うと、新型コロナウイルスの感染が広がるもっと前から感染症へのリスク管理をしなければいけなかったのでしょうね。可能性としてオンラインで授業をやったりガイダンスを対面ではない形でやったりしなければいけないということへの危機管理ができてなかったということが一番大きいと思います。

廣田:大学の危機管理はどのように進められるものなのですか?

斉藤:学内に危機管理室があって、そこから指示があるのですが、どちらかというと大震災や台風など自然災害への備えが中心です。毛布の確保とか水を備蓄しましょうといった内容ですね。きっかけは東日本大震災です。当時、部活動をしている学生の安否確認をした際に走って確認しに行くしかなかったのでトランシーバーを用意しました。ほかには数日間学生が寝泊まりできるスペースを用意するとか。ただ、感染症はまったく想定外。

廣田:なるほど。ほかの危機管理の課題としては、常に連絡が可能な学生とのコミュニケーションのハブをどう作るかということもありそうですね。学生のポータルサイトの利用状況、例えば利用率などはモニタリングされているのですか?

斉藤:いえ、モニタリングはしていないです。必要に応じてログを取るのですが、去年はコロナ禍でも全然増えず愕然とするという感じでした。で、結局郵便を使うことになり、就活用の冊子やマニュアルも郵送しましたね。

廣田:なるほど。そう考えると学生に対するwebマーケティングが必要なのかもしれないですね。DM送る、そこからポータルサイトを訪れたアクティブ率を見る。定期的にそうした数値を把握するといった。

斉藤:そこは全然できていないですね。

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