コロナ禍で課題噴出 大学経営ぶっちゃけトーク

また卒業生から電話「この会社はブラックですか?」

廣田:それは本当に閉じ込められた感じで、外部から入ってくる情報も乏しかっただろうことが想像できますね。そうした状況で最終的に去年の就職状況はどうでしたか?

斉藤:ホテルや観光業、航空業など人気がある業界が軒並み採用ストップし、学生は強い不安を感じました。来年良くなるという保証は無く、やりたいことを目指すということをあきらめ、入れるところに入るという選択が増えました。閉じ込められた状態が続いていたこともあり、とりあえずどこかと繋がりたいという気持ちを持った学生もいたようです。

廣田:それは氷河期を経験した世代とはまた違う不安感ですね。

斉藤:トータルの数でいうと結果的に募集はさほど減りませんでした。逆にこれまで採用に苦労していた業界にとっては良い学生を採用するチャンスだったわけですから。ですので、就職率もさほど落ちていない。ただ、こうした状況で就職を決めた学生には納得感がない場合が多かったようです。オンライン選考だと会社の雰囲気を最後まで肌で感じることができずに就職したケースもあります。今年の4月、ちょうど入社直後のタイミングでまた電話がかかってきました。

廣田:卒業生からですか?

斉藤:はい。入社式で「朝早く来て掃除をしなさい。帰る前も掃除をしなさいと言われました。この会社はブラック企業ですか?」とか、「残業ないという説明だったのに残業させられます」とか。最初に100%納得して入社しているわけじゃないから、思っていたのとちょっと違うことがあると「じゃあ、もういいや」と思ってしまう。

廣田:そうか、入りから否定的なのですね。

斉藤:もちろん全員がそうではありませんが、入社前から転職するつもりで会社を決めざるを得なかった、コロナ禍は学生にそういう選択を強いた面があったと思います。特に今年はこれまでと違うという強い印象を持ったのが、「第二新卒って何歳ぐらいまでのことを言うんですか?」という問い合わせが複数あったことです。過去に聞かれたことがない内容でしたから。

企業の情報発信が乏しいと自走できる学生も減る?

廣田
廣田

せっかく採用した人材ですから企業側にも定着率を上げる工夫や努力が必要ですね。

斉藤:コロナ禍で乏しい情報の中、多くの学生が就職活動をせざるを得ませんでした。もちろん、中には自ら積極的に動いて望むところへ就職できた学生もいます。ただ、情報が乏しいがゆえに自走できるまでに至らなかった学生のことを考えると、我々がどう対応すべきだったのだろうかということをつい振り返って考えてしまいます。

廣田:今のお話を伺って、以前働いていた会社の新卒に「自走できる」という印象を抱いたことを思い出しました。そのときは学生の基本的な素養が自分の学生時代より高いのだろうと考えたのですが、就職活動を通じて企業の情報が学生に届くことにより、学生の意識が高まり自走できるようになるという面がありそうですね。

斉藤:企業がターゲットを明確にして、こういう学生に志望して欲しいというメッセージを数多く送り届けるとそういう学生が集まります。また、学生もそうなろうと努力しますよね。一部の大手IT企業の中には、コロナ禍の環境変化に対応したメッセージを素早く届け続けていたところがありました。

ただ、この1年を振り返ると、例年であればもっと自走できる力があったはずの学生に企業のメッセージが十分に届きませんでした。結果として、学生全体を見ると、自走できるようになったのは氷山の一角にとどまり、情報の届きにくかった学生が浮上できなかったというのが個人的な印象です。

廣田:さきほど3月にピタッと企業からの連絡が止まったという話がありました。情報発信が乏しいと自走できる学生が減るのだとすれば、学生にとっても企業にとっても非常に不幸な話です。企業の情報の出し方、もっと言うと求人広告の出し方によっても、学生の意識が変わったかもしれない。逆に言うと学生が社会に出るまでにもっと多様な取り組みができる可能性を感じます。

斉藤:そうですね。多様な送り出し方があるはずですが、当事者としてしっかり検討できていないということにこの1年で気づかされました。こういう時代ですのでもっとAIやITを活用していきたい気持ちはあるのですが。

廣田:学生の出口戦略をどうアレンジするかという視点で見るとIT系の企業にとってもビジネスチャンスですね。もっと前のガイダンスのプロセスから完全にアウトソースするというのもわかりやすいかもしれません。

斉藤:企業は自分たちの会社に入ってもらうことを第一義にそれぞれ個別に動いています。もっと協力して学生の抱える課題を解決するために動くとか、そういった機運が高まるといいなと個人的に思います。

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