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Amazonでの仕事は楽しすぎてまるで麻薬のようだった

廣田
廣田

日立からアマゾンジャパン合同会社(以下、Amazon)へはどのようなきっかけで移ったのでしょうか?

鈴木
鈴木

東日本大震災がきっかけです。工場だけでなく私の家も被災したのですが、妻が子どもを連れて岡山に避難してしまいした。

鈴木:そこから2年半ぐらい離れ離れになり、会えるのは月に1回という日々が2年以上続きました。岡山を離れるときに子どもたちが泣くのがつらかったです。そんなときに、ヘッドハンターから紹介してもらったのがAmazonです。英語は話せないと伝えたのですが、なぜか採用されました。当時は小田原にAmazon国内最大の倉庫が立ちあがったばかりで、さらに西日本で倉庫を増やすため人を多く採用していく必要があったころです。

廣田:なるほど。外資系企業でオペレーションに近い人材管理の部署は当初手薄になりがちです。業務拡大につれて労務関係を固めることが重要になったタイミングですね。

鈴木:当時、Amazonの倉庫での仕事はブラックということでネットの掲示板で非常に叩かれていましたし、実際に離職率もかなり高かったです。当時のAmazonの人事は外資系出身者が中心で、労働集約系のビジネスでも通用する労務系に強い人材が欲しいということで白羽の矢が立ったと聞いています。そこで、Amazonに入って西日本の倉庫やコールセンター立ち上げと安定稼働に関わり、あっというまに5年半が過ぎました。実際に濃密な時間で10年以上いる感覚でした。Amazonでの仕事は驚くほど楽しいのです、何と言ったらいいでしょうか、テンションが上がりまくります。麻薬のように。

廣田:麻薬ですか。働きすぎになるということですか?

鈴木:例えば、「承認」はマネジメントする上で重要です。ただし、あくまで承認は目的を達成するためのツールだと思います。ただ、Amazonは承認そのものをレコグニション(Recognition)とアプリシエーション(Appreciation)と捉えて、それを日常のマネジメントに落とし込んで組織文化になるよう巧妙に仕組み化します。その効用は絶大で、麻薬のようにテンションの高い状態が休みなく続きます。

廣田:レコグニションには行動の結果、つまり成果が必要ですが、アプリシエーションはそうした条件がなくいつでも可能です。例えばどのような仕組み化の例がありますか?

鈴木:新しいことにトライする際に、失敗はつきものです。ですが、Amazonには失敗という概念がなく実験として捉える面もあります。失敗の経験もナレッジとして残せれば実績です。失敗して継続できなかったのではなく、試した結果、ビジネス判断として止めることができたという成功体験で、その実験結果をいずれ成功につなげるという循環にするわけです。ただし、これは何を目的にしているのか?何を目標にしているのかを最初に設計することが重要です。その軸さえブレなければ、人を責めることはありません。こうなると行動しないと経験が積み上らず個人としても損ですし、新しいことをやればやるほど成果になるので楽しいのです。

廣田:休みなくゲームしているような感じですね、きっと。

鈴木:そのとおりです。24時間365日スーパーハードワークです。私自身もせっかく家族で石垣島に行ってシュノーケリングで楽しんでいたのに、仕事のことを考えて上の空だったのでサンゴ礁にぶつかり大怪我したことがあります。「お父さんずっと空を見ていたよ。頭の中で仕事していたでしょ」と言われて、ワークライフバランスとかけ離れた世界にいるということに気づきました。このまま家族との時間を持たずに何10年も続けられないと。そんな資本主義の権化みたいな企業で働いていたので、これまでとは違う世界を見てみたくなったのです。

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