コロナは「働かないおじさん」発見機?ボスマネジメントとわがままのススメ

自分のストライクゾーンを考える経験

廣田:上司とのコミュニケーションを図る方法は難しいですよね。MBO(目標管理制度)や1on1(定期的な1対1のミーティング)を行っている会社も多いですが、そこまで上手く回っている気がしません。自分の得意なことってなぜ言いづらいのでしょう?

Number:恥ずかしながら、例えば私の場合は言いづらいのではなく得意なことがわかりません。学校教育が終わって企業に入って、「自分が仕事でやりたいこと」の棚卸をするタイミングもありませんでした。会社では昇進のために「イエスマンが正しい」という価値観なので、強いて言えば、与えられた仕事をするのが得意、という。

難波:その通りかもしれません。好き好んでイエスマンというより、今までの組織論で言うとイエスと言っていることが正しい文脈のはずなんです。異動の辞令が出たら「わかりました」、次この仕事やってね、「わかりました」と。組織運営上も、それをきちんとやることが正しいですよね。

その状態をずっと続けていて、突然この変化の時代だ、自発的に変化しろ、自律だ、キャリアオーナーシップだとか、ここ数年で突然手のひらをひっくり返されてはしごを外されて。気が付いたら南極の小さな氷山にひとり取り残されてるような状況が、たぶん今までの正しさの中で10年、20年、30年と生きてきた人たちが置かれている状況なのかなと思います。だから言えなかったというより、自分について考える必要がなかったのですね。

廣田:考える必要がなかったし、考えるという仕事を与えられてきていないから、考えていない、と。

難波:そうです。上司は「考えて良いんだよ」とも言わなかったし。なぜならば上司も考えていないから。

でも、新しいイノベーションを起こしたり、新しいものを考えるって、やらされるだけでは何も思いつかないですよね。新規事業のアイデアを毎日考えろと言われても、人間の脳みそは嫌な事に対してシナプスが繋がらないようにできているので、好きじゃないと良いアイデアが出ない。

その点で言うともう好きで好きで仕方なくて四六時中寝ても覚めてもそのことを考えている人たちの集団じゃないと、今の世の中勝てなくなってしまっているんですよね。会社もそのことは分かっていて、例えば、IT大手のYahooだと「才能と情熱を解き放つ」を人事コンセプトにしていますよね。

ただ、今までそうではない世界観で何十年と生きてきた人達が急にそうなれるかっていうとなれないので、研修を使ったり外部のカウンセリングを使ったり、1on1を使ったり、いろんなことであれこれやっている感じです。

ゴールフォーカスからリスクを考える

廣田:目の前のリスクは反応しやすいですが、長期のリスクは読みにくいと感じます。私が関わっている業務系のITの世界に多い話ですと、担当が、「5年後に起こりうるリスクに備えて投資をしましょう」と提案しても、ずいぶん先の話なので、経営者判断でお蔵入りになる。その3年後に結局やることになった時にはもう、準備期間も減って2年になっているし1億で済んだはずが5億かかる、そんな話はよくあります。長期のリスクを見通す目や感じとるスキルって、どういうところにあると思われますか?

難波:人材マネジメントやフィードバック、ネガティブフィードバックのトレーニング時に、上司の方も人事の方も経営の方も、できない理由ってみなさんたくさんおっしゃるわけですよ。

こういう理由でできない、と。その時に、「やらない選択も良いですが、やらなかった場合将来的にはどうなりますか?」ということを一度考えもらいます。

例えば、ネガティブフィードバックのトレーニングでは、上司の人たちはあらかじめ対象者の顔が頭に浮かんでいるはずです。その人達を3年5年放っておくと、どうなるんですか?と。発酵熟成して最終的にはボジョレーヌーボーみたいにおいしくなるなら良いけれど、一般的にはひたすら塩漬けされ続けて、もう10年物みたいになっちゃうわけですよ。このまま放置したらそのギャップが広がり続ける、少なくとも今日が本人にとって一番改善期間が長いので、早めにやっておいた方がお互い良いのではないですか?と。

キャリアデザインでよく言うのは、ゴールフォーカス。例えばこれからのキャリアを考える時に、「あなたにとって節目のゴールの瞬間にどうなっていたいかを想像してみてください」と問う。例えば会社を定年退職する日、家族や部下・同僚からどう言われどう思われたいか、自分がどう思いたいか。自分の葬式の日、人生を振り返ったときに、自分の人生をどう思いたいか、弔辞でどんなことを言われたいかとか。そういったものを本気で一回考えてみませんか?という質問をします。

廣田:本当のゴールから考える…

難波:そう。人によってはね、娘さんが大学卒業する瞬間が自分の人生のピークだから、その瞬間に「お父さんありがとう」と言われたいって人もいます。自分にとってハイライトだなぁと思う瞬間にどう思いたいのかっていうことをまず1回考えてみて、今の自分の延長線でそこへいけそうなのか、今の自分が変わらないと辿り着かないのかを考える。

廣田:ゴールから逆算することで、長期リスクを理解し、自己投資する視座を持つのですね。

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