今回登場いただくのは、合同会社エンジニアリングマネージメント社長、久松剛さん。バズtweetを繰り出すIT百物語の蒐集家としても有名です。 世間を賑わすWeb3。 トレンドによりIT人材のキャリアの選択肢は増えるのか? トレンドに振り回されずにIT人材のキャリアを歩むには? についてお話をお伺いしました。 (2022/6/9 インタビュー)
久松剛
合同会社エンジニアリングマネージメント社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。ビジネスへの転身後、ベンチャー企業3社にてエンジニアや中間管理職を歴任後、独立。スタートアップ・ベンチャー・老舗製造業といった複数社でのITエンジニア採用・研修・評価給与制度作成・ブランディングといった組織改善コンサル、研修、セミナーなどを担当。株式会社overflow Offersデジタル人材総研所長、株式会社サポーターズ エバンジェリスト、株式会社アカリク顧問、TECH PLAYアドバイザー、STARMINE株式会社顧問を兼務。ITエンジニアの採用や活躍、キャリアに関する情報発信としてレバテックラボ連載を行っている。
廣田 真一
未経験からITの世界に入り、ERP導入コンサルタント、フリーランス(PMO/新規事業PJ)、社内SE(社内システム企画/情シス)を経て株式会社Number「チャンピオンサーチ」事業責任者。大企業からベンチャーまであらゆる事業規模のITコンサルティングを手掛ける。得意領域はワークフローのデジタル化、制度会計/販売管理。推しツールはServiceNow。
WEB3が連日Twitterのトレンドを飾り、「学生起業」や「海外移住」など強いキーワードが溢れています。久松さんは現状をどのようにご覧になっていますか?
久松:元々P2Pの上でコンテンツ配送網を作る研究をしていたので、Web3の志は認める一方でプレイヤーが一攫千金狙いなのは不健全だなぁと思っています。
目次
トレンドの歴史に学べ 研究者が好きなものを作って発信していたweb1.0
久松:2010年代前半、IETF(Internet Engineering Task Force:インターネット技術の標準化を推進する団体)のワーキンググループにPPSP(Peer to Peer Streaming Protocol)というものがありました。P2Pネットワークの上でコンテンツを流通させようという試みです。
当時IETFにいくと中国の研究者ばかりでした。サーバ・クライアント型のインターネットではインターネット人口の多い中国ではスケールしないという論調もあった一方で、グレートファイヤーウォールの存在が裏テーマとしてありました。サーバーから配信すると検閲されて止められる、だからP2Pで配信することに需要がありました。
思想の自由を求めてP2Pのインフラがあるべき!という一団だったわけです。Web3も崇高な哲学はアンチGAFA、アンチメガプラットフォーマーですよね。メガプラットフォーマーからインターネットを取り戻せ!と唱えている人たちも居ます。
廣田:「政府に管理されてなるものか」の思想が現在は「GAFAに管理されてなるものか」に移った。哲学は同じです。
当時、PPSPは流行らず、活動としてはクローズしてしまいました。まだブロックチェーンが出てくる前だったので、改ざん防止ができず、PPSPの上でお金を乗せることができませんでした。
廣田:お金が乗ることがなかったのは大きいですね。哲学だけでは継続できない。というエビデンスになっていると思います。
研究開発のweb1.0、ユーザーがお金を産むことが判明したweb2.0
久松:Web2.0より前のインターネット、つまり2000年代前半までのweb1.0は研究者が「こういう世界があったほうがいいよね」からスタートして、ないから作ろうといったものでした。
そこから、口コミやECサイトとその評価が始まり、つまり「ユーザーの趣味趣向とその動き」に経済的価値があると発見されたのがWEB2.0の文脈です。
Mixi、Orkut(googleが運営していたSNS)、facebookなどが出てきた当初は、私の周囲の研究者たちの多くは「会員制の掲示板でしょ?」とまさかイノベーションを起こすものになるとは思っていませんでした。
ユーザーが作るコンテンツに経済価値があると発見されたことがweb1.0からweb2.0への時代の転換だったのですね。開発の現場ではどのような変化があったのでしょうか?
久松:それまでは研究者が好きなものを作っていたのが、ユーザーがインターネット上で情報を双方向にやり取りするだけでなく財布を開くようになったため、ユーザーの声を聴く必要が出てきました。
そして、研究開発の時代に止めを刺したのが事業仕分けです。それまではインターネットを問わず研究者は「こういう世界を作る必要があると思います」と申請書を出せば、研究開発費が確保できたのですが、事業仕分け以降は「国民生活の何の役に立つか?」をプレゼンしなければお金をもらえなくなりました。
ユーザーが喜ぶものを提供するインターネット、それがweb2.0です。ユーザーの意志と財布がインターネットに繋がったとも言えると考えています。
そして、次がWeb3ですね。
廣田:Web3どうなるか?となったときに歴史を眺めると、単純にweb1.0に回帰することはできなくて、「どういう目的でお金を動かせるか」が重要になっていますね。
Web3は「基盤技術×お金の流れがNFTで可視化されたことによる期待の波」
久松:その昔、IPTV(インターネット上でテレビ放送する)と言われたものがありましたが、様々なプレイヤーが参入してはマネタイズできなくて消えていきました。
そのときしみじみ思ったのは「見たいコンテンツ、面白いコンテンツを見ることができれば基盤技術は関係ない」ということです。
基盤技術が優れていることは普及のカギになりえない。
廣田:基盤技術が優れていることはユーザーには関係ない。ブロックチェーンはまさに基盤技術ですね。
なぜブロックチェーンというよりも、仮想通貨と言う方が盛り上がるかというと、多くの人が仕組みをわかっていない状態で「なにやら仮想通貨が儲かりそう」という動機があるからです。
廣田:儲かれば、どのブロックチェーン上のどの仮想通貨かは問題ないですもんね。
久松:5-6年前に、ブロックチェーンの勉強会のモデレーターをやったことがあります。12団体ほどが講演をしたのですが、「いかに儲けるか?」「いかにしてこの事業を売るか」という話が8割だったことを覚えています。
廣田:会場の雰囲気が殺気立ってそうですね。(笑)
久松:まさにそんな感じでしたよ。
WEB3の話に戻ると、NFTがお金の流れの中心になっているなと感じます。
廣田:ジェネレーティブNFTという形で1万個くらいNFTアートを一気に販売するプロジェクトが多いですね。ブームもあってか、既存のスタートアップに比べて、チームが売上を立てるまでのリードタイムが早くなっていると感じます。
久松:数年前、母校の大学周辺で「ブロックチェーンのプログラマー募集アルバイトには気をつけろ!」と教員が学生に注意喚起する地獄絵図が展開されていたことがあります。出資者からコンセプトだけでお金を得た後、学生アルバイトに要件定義から丸投げするという一団が居ました。その点で、今のブロックチェーンの流行り方、NFTはオープンに確からしい実装とともに流行り始めているので健全に感じますね。
しかしWeb3については言葉が先行しすぎており、各種メディアも取り上げ、面白そうだから、儲かるらしいからという理由でなし崩し的に広がっていっていると感じます。
最大の懸念は「私たちのインターネットを取り戻せ」というベースとなる思想がどこかにいくかもしれないことですね。
廣田:NFTは技術がわからない人にも「目に見える」ようになり、Web3のトレンドを作っていますね。
基盤技術とお金の流れが結びついた「ブロックチェーンと仮想通貨」。ここに、お金の流れや基盤技術を可視化したNFTが出現したことで一気にトレンドを作ったweb3。
Web3の波を、IT人材はどのように乗りこなせばよいのでしょうか?