目次
市民開発者とは
市民開発者とは、社内のIT部門が許可したプラットフォームでアプリケーションを作成する、IT部門外のエンドユーザーのことです。
なぜ市民開発者が重要か?
多く企業が、IT部門外のエンドユーザーによるITを使った業務効率化の実現を求めています。つまり「市民開発者」を企業が求めているのです。アプリケーションに対する需要が年々高まる一方で、従来の開発者だけではリソースが足りず、需要に対応しきれない事実が存在します。IDCの予測によると、2023年までに開発されるアプリケーションの数は、実に5億件以上です。Gartnerの調査によると、61%の企業が既に積極的な市民開発に取り組んでいる、または近い将来、導入する予定です。
61%の企業が市民開発を推進
Gartnerの調査によると、企業は既に積極的な市民開発に取り組んでいる、または近い将来、導入する予定です。
IT側のニーズ
デジタルビジネスモデルはますます成熟し、終わりのないIT課題を生み出しています。IT部門は、常に技術基盤やアプリケーションの最新化に追われ、しかも、これらのデジタル化のアジェンダは、IT部門だけでは達成できません。市民開発者がビジネスクリティカルなアプリケーションの開発を支援できれば、IT部門は手が空き、技術的な専門知識が必要なプロジェクトに集中できるようになります。
ビジネス側のニーズ
多くの場合、業務部門のプロジェクトマネージャーやユーザーは、IT部門によるアプリケーションの提供速度に不満を感じています。適切な市民開発ポリシー、トレーニング、ツールの導入によって、ビジネスユーザーは、社内のIT部門の開発者を待たずして、自分でソリューションを作成することができます。
ただし、IT部門によるチェックを怠ると、IT側で把握しきれないアプリケーション品質やセキュリティの問題が発生する可能性があります。したがって、プロジェクトマネージャーは、市民開発者およびIT部門と協力して、全ての開発プロジェクトが適切なガバナンスフレームワークに準拠していることを確認しなければなりません。
市民開発で作成されたアプリケーションは、自分が欲しい機能を抜け・漏れ・重複なく実装できるので、ビジネスユーザーにとってより実運用に即したものになりますね!
市民開発は今までは、現場での業務改善とイコールでした。テクノロジーの進化により、現場だけ、IT部門だけで閉じたIT活用の時代に終わりが見えてきたというイメージです。IT側とビジネス側のニーズを同時に解決することがこれからの市民開発だといえるでしょう。
アプリケーション作成の手順
計画
計画の指向性は、あらゆるアプリケーションの作成に即時的かつ長期的なメリットをもたらします。アプリケーション作成における市民開発の導入準備では、まず次の質問について検討してください。
- アプリケーションの目的、目標、出力は何か?解決しようとしている問題は何か?
- アプリケーションを使用するユーザーは誰か?
- ユーザーにフィールドの閲覧や編集を許可するか?ユーザーごとに異なるアクセス権は必要か?
- ユーザーはアプリケーションをどのように使用するか?アプリケーションは情報を提供、収集、案内、検索、リクエスト、共有するか?
- ユーザーはアプリケーションにデータを入力するか?外部のソースからデータをインポートする必要があるか?
- ユーザーはアプリケーションをどのように操作するか?モバイルデバイス、PCのどちらを使用するか?ユーザーはチャットボットなどのインターフェースを介して会話するか?
- 利害関係者はアプリケーションのレポートをどのように実行するか?
計画を始める際は、プロセスの終わりを意識するべきです。出力は入力の原動力となる傾向があり、プロセスを高速化したい場合、出力メトリクスの理解が、評価対象の特定につながる可能性があります。
データ
データを作成するための最初の手順です。適切なユーザーが、適切なレベルでデータにアクセスできることを確認します。まずアプリケーションレコードを作成または開き、次に関連するテーブルとフィールドを使用してデータモデルを作成、最後にデータをセキュアにしてインポートします。
設計
設計段階では、適切なエンドユーザーエクスペリエンス、チャネルの特定および作成に焦点を当てます。Web、モバイル、チャットボットなど、それぞれのユーザーエクスペリエンスに必要な機能を決定します。
ロジック
ロジックは、アプリケーションを有用なツールにするものです。ユーザーに表示するものと表示しないもの、データの入力、更新、削除時の挙動を制御するルール、アプリケーション内の条件やイベントのユーザーへの通知など、さまざまな形で実装されます。
- フォームのロジック:フォーム訪問時のユーザーへの表示内容を制御することで、応答性や生産性を向上させることができます。提案または強制、どちらを実装したいのかを検討してください。提案ではフォームの入力が簡単である一方、強制ではフォームの入力を完了するために、ユーザーによる特定のアクションが必須になります。
- ビジネスルール:レコードの作成、変更、削除時に実行されるロジックおよび検証です。フォーム送信時に実行される条件付きロジックを作成する場合に有効です。
- Flow Designer:ビジネスワークフローの作成に使用されるツールです。フローの設計時は、各フローに1つの目標があること、再使用可能であること、アクションの目的が明確であることを意識してください。
- Integration Hub:フローを作成したり、既成の連携コネクタやアクションを使用したりするための強力なツールです。
- 通知:多くのアプリケーションでは、ユーザーやグループへのタスク割り当て時、リクエストの起票時やクローズ時、承認が必要な場合などのために、マルチチャネルの通知が必要です。
ローコードの市民開発者
市民開発者は、ITの課題削減や開発時間短縮のための効果的なソリューションを作成しますが、全ての市民開発者に専門の開発者と同等の教育や経験を期待することはできません。したがって、市民開発者にローコードのアプリケーションツールを提供し、IT経験のギャップを埋めることが成功戦略と言えるでしょう。テンプレート、コードライブラリ、既成の連携などによって、市民開発者が、強力なビジネスアプリケーションの作成に必要なリソースを獲得できるため、生産性が向上します。
多くのアプリケーションは、専門の開発者と市民開発者の両者にインプットや労力を要求します。よって、専門の開発者とローコードの市民開発者とのコラボレーションが可能なプラットフォームは、複雑な部分を専門の開発者に任せて、市民開発者がローコードのリソースで単純な問題に対処するのに役立ちます。
ITコンサルティングの現場で見てきた経験でいうと、すべての人が「今の業務をよりよくしたい」と望んでいるということです。そのためには、「ローコードツールをただ提供する」というだけでは「業務をよりよくする」という目的を達成できません。ツールと活用するためのサポート体制の両方が必要です。
ServiceNowの市民開発ツール
ServiceNowは、ローコードからノーコードまで、一連の市民開発ツールを提供しています。
APP Engine Studioとテンプレート
APP Engineは、シンプルで視覚的なインターフェースによって、市民開発者によるコラボレーション、ワークスペースのカスタマイズ、自動化機能の実装が可能な単一の環境を提供します。テンプレートや最適なデザインを使って、すぐに開発に取り掛かることができます。
Flow Designer
Flow Designerは、ロジックの記述に自然言語を使用し、フローの開発やテストが可能な単一のインターフェースです。カスタムアプリケーションへのワークフロー追加、カスタムスクリプトの削減、Integration Hubとの連携に効果を発揮します。
Process Automation Designer
高度なエンタープライズアプリケーション開発プラットフォームであるProcess Automation Designerは、ノーコードのプレイブック、サードパーティ製の既成の連携[YS5] 、割り当てられたトリガーを使用して、より高速かつ効率的なワークフローを実現します。
Integration Hub
エンドツーエンドのデジタルワークフローを簡単に作成し、サイロ、システム、部門を超えたプロセスを自動化します。Integration Hubは、アプリケーション固有の自動化のアクションや「スポーク」と呼ばれるサブフローで連携を簡素化し、信頼性の高いノーコードの自動化で、あらゆるレベルの開発者を支援します。
仮想エージェント
AI強化型のチャットボットである仮想エージェントには、NLU Workbenchが含まれています。市民開発者は、インテントの定義、エンティティのマッピング、高度なノーコードモデルの作成を簡単に行うことができます。
Predictive Intelligence
高度な機械学習でワークフローを強化し、繰り返しのタスクを自動化します。ノーコードで、既成のテンプレートがあるため、Predictive Intelligenceの実装は簡単です。
Performance Analytics
ServiceNow Performance Analyticsで、対象分野の専門家や利害関係者は、目的別のKPIとダッシュボード、自動アラート、リアルタイム情報を使用して、リソースの優先順位付け、傾向の予測、自動化やセルフサービスソリューションの活用が可能です。
コロナ禍における市民開発者
新型コロナの流行は、世界中に大きな影響を与えました。
アプリケーション開発の世界でも、オフィス出社から在宅勤務への移行によって、ローコードの開発ツールの人気がこれまでになく高まっています。コラボレーションの改善やアプリケーション出力の向上を推進するプラットフォームは、この過渡期に使用されなくなる可能性がある正式な開発プロセスの再現に役立ちます。
それだけではなく、市民開発によって、企業はリモート勤務やハイブリッドワークの課題に対してより適切に対処できます。開発責任を専門の開発者以外にも拡大すれば、膨大なIT部門の負荷を効果的に軽減できます。同時に、迅速なソリューションを求める声は、これまでローコードのソリューションの導入が遅れていた多くの業界に刺激を与えました。
結果として、市民開発が急速にスタンダードになりつつある、ITを取り巻く新たな状況を迎えました。この状況は、コロナ後もずっと続くかもしれません。
市民開発という言葉は、ツールを使いこなすだけでなく、自らもツールを作り出す必要がある。ということを示しています。ITを使いこなし、生産性の高いビジネスを創出し、自らの働き方を変革していくことが求められると感じますね。